発達障害の可能性のある児童生徒等に対する
教科指導法研究事業

②社会における「志導」に関する教授法(2)

★ 対象とした学習上のつまずくポイント:

歴史上の人物の名前や、社会科に関する重要語句の暗記・理解が他の生徒と比べて時間を要する。あるいは暗記・理解が十分に行うことが困難である。

★ 上記に対する取組内容:

これらの症状を呈する障害としても「発達性ディスレクシア、特異的読字障害」等が考えられる。国語で指摘したことと同様、教育現場において、内容を理解できていなかったり、テストにおいて十分な点数が採れていなかったりした場合には、教職員・保護者から「本人のやる気がない/十分に学習をしていないから」といった解釈がされてしまう恐れがある。加えて、具体的なイメージをもつことが困難である歴史上の人物や、地理や公民に関わる重要語句の暗記・理解が得意ではない児童生徒に対し、「繰り返し学習・練習をすれば覚えられる」といった一方的な指導では、学習性無気力等の二次障害を促す可能性もある。

B) ICT端末を用いた思考整理の「志導」:

『小学校学習指導要領解説 社会編』第6学年の目標、及び『中学校学習指導要領解説 社会編』における歴史的分野の目標をみると、人物の名前や語句の暗記ではなく、児童生徒それぞれの興味・関心にもとづきながら、先人の業績や、各時代や地域の文化などを結びつけることで、一人ひとりのより深い理解へと導くことが求められている。したがって有効な手立ての1つとなり得るのが、マインドマップを活用した学習であった。授業で扱う内容や人物を契機として、児童生徒個々に応じたマインドマップを作成することで、それぞれの興味・関心を持続させることができる。また1つの内容・事象に関して、児童生徒一人ひとり異なるマインドマップが作成されるため、単なる暗記に陥りがちな学習を回避できる。つまりそれは、授業で扱う題材に対して児童生徒たちに多面的・多角的な理解を提供することに繋がると考えられた。

 読み書き困難がある児童生徒は、視覚的な理解を苦手とする場合が多い。ゆえに語句の暗記に関して、他の子どもよりも時間が要することがある。一方でそうした児童生徒は、順序を踏まえた理解や、部分から全体への方向性を踏まえた理解、つまり継次処理による手順からアプローチすることによって、内容理解の負担が軽減することもある。

図6 対象児が作成したマインドマップ

 図6は、愛媛大学で「志導」を行う小学6年生が、実際にマインドマップ作成支援アプリ「iMindmap」を使用して作成したものである。対象児童は読み書き困難を抱えており、語句の暗記・理解に苦手意識を抱えている。そのため、社会科で重要とされる歴史上の人物や時代背景、当時の文化について学習することにも抵抗感を覚えていた。ただし、本人には、NHK朝の連続テレビ小説の鑑賞という趣味があった。そこで、これまでに本人が見てきた連続テレビ小説をトピックにしたマインドマップの作成を促した。更に、ドラマで描かれている時代背景までマップの範囲を広げ、当時の状況に関する理解を図った。本人は自分の関心がある物事からマインドマップを構成することで、自身の興味を持続しつつ、意欲的に作業へ取り組むことができた。また、ドラマで映された風景や情景を自分の背景知として用いることができるため、調べた内容を身近に感じ、より具体的なイメージをもって、理解することができたと述べていた。

 こうしたマインドマップは、際限なく広げることが可能であり、汎用性の高い社会科の調べ学習を可能とする。また、他の生徒たちと作成したマインドマップを共有する時間を設けることで、1つの事象に対する多層的な理解の機会を提供することができる。社会科の学習は時によって、内容を単に暗記するだけの受動的な科目として理解される場合がある。しかしこのようにマインドマップの作成を活用することによって、読み書き困難を抱える児童生徒を射程に入れながら、全ての子どもたちに開かれた主体的な学びを提供できることが示唆された。

 本事例のように、近年では、iOS端末等のアプリを用いることで、読み書きにつまずきがあったとしても、キーボードや音声認識機能で文字を入力できるため、マインドマップ等を作成しやすくなっている。あくまでも本学で「志導」を担当した事例を通しての経験則であるが、児童生徒が情報を順番に処理することが得意な継次処理継次処理型学習者の場合にはマインドマップ作成支援アプリ「ロイロノート」が選択される傾向にある。実際、本項で示した事例の児童についても、継次処理型学習者であり、日常的には「ロイロノート」を利用している。

 一方、全体と部分の関係を意識しながら俯瞰的に処理することが得意な同時処理型学習者の場合、及び全体を俯瞰する課題(前述した連続ドラマのマインドマップ作成のように、本人が視聴してきた連続テレビ小説の全体像を拡散的思考に基づき俯瞰する場合)の場合には、同種のアプリ「iMindmap」を選択する傾向にあることが示唆されている。