発達障害の可能性のある児童生徒等に対する
教科指導法研究事業

①国語における「志導」に関する教授法(1)

★ 対象とした学習上のつまずくポイント:

聞く話す機能は実年齢相当であるが、文字の読み書きに困難がある。具体的には、教科書や副読本、ワークシート等の読み書きができない、もしくは読み書きに同学年の児童生徒に比し2〜3倍程度の時間を要する。

★ 上記に対する取組内容:

上項★3の症状を呈する障害としては「発達性ディスレクシア、特異的読字障害」等が考えられる。教育現場においては医学的診断や教育的判断が出ていない児童生徒も多く、また教職員・保護者も「読み書きは遅いが障害とはいえない」と捉えている事例も多い。したがって、教職員・保護者からは「本人のやる気がないからやらないだけ」「繰り返し学習・練習すれば覚えられる」と誤解され、学習性無気力等の二次障害に発展する場合も少なくない。このような「読み書き困難」というつまずきに関して、教員養成課程等における学部生・大学院生への教授法については後述する。本項では、上記のつまずきがある児童生徒への「志導」の方法について開発・考案した内容を示す。

A) 児童生徒自身が読みやすいと実感できる視覚教材の準備:

読み書きに関わる検査・評価方法であるURAWSS(Understanding Reading and Writing Skills of Schoolchildren)やMNREAD-Jを参考に、国語の教科書・副読本・プリント・ドリル等の文字の種類(教科書体、明朝体、ゴシック体等)、大きさ(ポイント数)、背景色と文字色を変えながら児童生徒の反応(読み書き速度・理解度)を観察する。

  • (ア) 愛媛大学で教科学習の「志導」を行っている小学6年生、及び中学3年生は、配布されている教科書の文字の種類・大きさでは、読んでいる途中に行が変わってしまう、読み終わるまでにクラスメイトの2倍程度の時間を要するという症状が見られた。教科書を1.0倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍に拡大複写した教材を用意し、読み速度、正しく読んだ文字の割合(正読率)を測定するとともに、本人に主観的な読みやすさを判断してもらった。その結果、読み速度と正読率の成績は1.0〜1.1倍よりも1.2倍〜1.4倍が高く、本人の主観的評価としては「1.4倍だと大きすぎて(上下左右に移動させる量が大きく)目が疲れる気がする。1.2倍が一番良い感じ」とのことであった。
    以上のことから、児童生徒の在籍する通常の学級において、1.2倍の拡大教材を用意してもらい、担任もしくは授業担当教員からクラス全体に「誰でも使って良い」と伝えてもらった。その結果、他にも「拡大した方がわかりやすい」と主体的に利用する児童生徒がいたことから、支援の対象となった児童生徒は、その後、他者の目を気にすることなく拡大教材を利用できるようになった。
  • (イ) 読みにつまずきがある児童生徒には、読む行を明確に示し、他の行を見えなくする教材(リーディングルーラー等)が有効な場合がある。また、読む行にカラーフィルムを貼り、背景色を変えると更に有効な事例もある。前項(ア)で示した2事例のうち、小学6年生はカラーフィルムを貼ったリーディングルーラーが有効であった。本人の認知特性に合うリーディングルーラーを作成するため、読む行を示すカラーフィルムの幅(教科書1行分、2行分、3行分、4行分、5行分)と、カラーフィルムの色(赤・青・黄・緑・紫・桃色を1〜3枚組み合わせる)を変えながら、本人の主観的な読みやすさを確認した。その結果、教科書1行分の幅で、黄・緑の2枚を組み合わせたリーディングルーラーが最も読みやすいことがわかった。作成後、本人は家庭での教科学習(宿題)で利用するようになった。
    同時に、作成時に試作した複数のリーディングルーラーをクラスメイトにも「使って良い」と提供したところ、「自分もほしい」という児童がおり、在籍学級全体で利用可能とした。
  • (ウ) 紙媒体の教材だけではなく、電子媒体の教材を用意することで、前項(ア)(イ)をより簡便に実現することが可能である。具体的には、DAISYコンソーシアムやアクセスリーディングから提供される教科書のデジタルファイルを電子書籍閲覧アプリ(iBooks、ボイス・オブ・デイジー等)用いて、文字の種類・大きさ、背景色と文字色を変えて提示する方法が挙げられる。
    愛媛大学が志導に関わっている事例では、保護者・学校が両団体に申請して入手したデジタルファイルを、iBooksかボイス・オブ・デイジーで表示している。