学習上の支援機器等活用評価研究事業

4.今後の見通し

4-1 まとめ

下記の行動変容モデルに示す通り,児童生徒が「学校現場で支援機器等教材を活用する」という行動変容を促進するためには,対象児童生徒本人への教育的介入(本人が行動を変容させようとする情動(動機づけ,態度,自己効力感等)・認知(行動変容の必要性に関する知識等)への働きかけ)と本人を取り巻く環境(保護者,教員,クラスメイト,学校組織等)への政策的介入が必要であると言えます。

4-1-1 教育的介入:本人の認知や知識の蓄積を促進する

 当然,対象児童生徒本人が,支援機器等教材を使用する方法,使用した場合の効果,自分が支援機器等教材を使った方がよい理由等についての認知・知識を蓄積する必要があり,その蓄積を促進する教育的介入が必要です。ただし,対象児童生徒本人が支援機器等教材を活用しようとする情動に変化させ,行動変容(支援機器等教材の活用)を継続・発展させることは,認知の変化よりも難しいことが多い,と言えます。

4-1-2 政策的介入:周囲の環境整備

 対象児童生徒本人の情動を変化させ,支援機器等教材を通常の学級において継続的に活用するためには,環境への政策的介入が不可欠であることが示唆されました。この政策的介入としては,(ア)保護者への介入,(イ)教員・学校への介入,(ウ)クラスメイトへの介入が挙げられます。

(ア)保護者への介入への留意点
「適切な指導方法の工夫として教材を選定・活用するために必要な指標」に基づき,指標の結果を示しつつ,下記のことを理解してもらう必要があります。

・対象児には支援機器等教材の活用や認知特性に応じた学習方法が必要であること
・それらによって,学習効果が高まったり対象児本人の自己効力感が高まったりすることが期待されること

(イ)教員・学校への介入への留意点
・管理職等の理解・協力を得て,学校全体として支援機器等教材を活用することを許容・推奨する体制を整えてもらうこと
・大学教員による合理的配慮に関する理解啓発研修や支援機器の実演研修を受けること

(ウ)クラスメイトへの介入への留意点
・対象児童生徒の年齢や特性,環境に応じて,対応を変えること

4-1-3 情動的介入:自己理解の重要性

 周囲の人への政策的介入が進み,周囲の人々が認知特性に応じた学習方法の活用を許容・推奨する環境が整ったとしても,学級内での支援機器の活用に至ったか否かは,対象児童生徒によって異なる結果となりました。思春期等の状況や失敗体験の積み重ねによる自己効力感の低下等がある児童生徒については,基礎的環境整備だけでは不十分であり,対象児童生徒自身に情動的変化が生じるよう継続的なアプローチが重要です。

 対象児童生徒の情動的介入として自分自身の読み書きの苦手さを自覚し,自分は何が苦手か,どのような方法を取ると効果的に学習を進めることができるかについて理解した上で,自らの言葉で表現できた対象児童生徒は,学級において主体的に支援機器等を活用することができるようになっていました。また,通常の学級における学習で使用できなかったとしても家庭学習等で主体的に活用することができるようになりました。以上のことから,対象児童生徒が自らの読み書きの特性について自己理解を深めること,またそれに応じた学習方法を理解することは,支援機器等教材活用の動機づけを高める上で重要であると言えます。

 

4-2 今後の見通し

 支援機器等教材・認知特性に応じた学習方法の活用を許容し推奨する環境が整うことで,対象児童生徒の情動面への教育的介入を行うことができるようになると言えます。更には,対象児童生徒の情動的変化(支援機器等教材・認知特性に応じた学習方法を活用しようとする動機づけの向上)に伴い,環境の理解も相乗的に高まっていくことが多いと示唆されます。ただし,学年が上がるにつれて,思春期等の状況になると,基礎的環境整備だけでは不十分であり,再度,対象児童生徒の情動面へのアプローチが重要になってきます。
上述した細やかな介入を行う上で,指導員・支援機器等教材アドバイザーの存在は重要でした。指導員・支援機器等教材アドバイザーには,支援機器等教材に関する知識,対象児童生徒に合わせて機能等を調整する技能,環境への政策的介入を行うための方略等の専門性が求められます。今後,通常の学級や特別支援学級等において,支援機器等教材の活用を進めるためには,指導員・支援機器等教材アドバイザーを配置するための予算(経済的課題),養成する課程・カリキュラム(教育・制度的課題)について検討を加える必要があると言えます。

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