愛媛大学UNLOCK

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愛媛大学教育学部では、平成31/令和元年度より、文部科学省事業「音声教材の効率的な製作方法等に関する調査研究」の委託を受け、音声教材の製作・提供を行っています。このページでは、本事業の背景と音声教材に求められる要件、愛媛大学が提供する音声教材などについて、お伝えします。

1. 調査研究の背景

「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(平成20年)の成立によって、教科書デジタルデータがデータ管理機関(教科書発行者等)を通じて無償給与されることになりました。それに伴い、音声教材として製作された教科用特定図書等を提供することが可能となり、結果として、発達障害等によって通常の教科書では一般的に使用される文字等を認識することが困難な児童生徒でも、教科書の内容把握により取り組みやすくなりました。そこで、本学では、教科書をテキスト化および音声化した教材「UNLOCK」を製作・提供するとともに、UNLOCKの効率的な製作方法と、効率的な提供方法に関する調査研究を実施することにしました。
私たちは、本調査研究を進めることで、当該児童生徒の障害特性や状態、そして児童生徒と保護者のご意向に応じた学習方法を提供することを目指します。

2. 音声教材に求められる要件と本事業で使用する情報端末

音声教材の製作と提供については、平成30 年度までは、①公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会(デイジー)、②東京大学先端科学技術研究センター(Access Reading)、③音声データ形式の特定非営利活動法人エッジ(BEAM)、④茨城大学(ペンでタッチすると読める音声付教科書)が取組を行っていました。令和元年度より、広島大学と本学(UNLOCK)も、音声教材の提供を開始しました。
これまでに提供されている音声教材の機能や規格、特徴等を表1にまとめました。
表1に示しているように、①と②の取組に関して、タブレット型情報端末やノートパソコンでの利用が想定されています。しかし、本学の研究グループは教育実践研究を行い、特別支援学校等においては有用なツールとして認識・活用されているタブレット型情報端末が、小学校・中学校・高等学校(いわゆる通常の学級)においては十分に活用されていない状況を明らかにしました。この傾向は、地方都市であるほど強いといえます。

読み書き困難がある児童生徒本人や保護者、担当教員に聞き取り調査を行ったところ、本人からは「自分だけiPadやパソコンを持って行くのは不自然だし恥ずかしい」、「特別扱いされているようで嫌だ」、「(Text-to-Speech機能での読み上げは)変な読み方が混じるから、気になって集中できない」等の理由により、授業では使用したくないとの回答が得られました。保護者も「合理的配慮としてiPadやパソコンを授業中にも使わせたいが、発達障害という診断をクラスメイトやその保護者に理解してもらえるかどうか」と危惧しています。文部科学省は、コロナ禍において「GIGAスクール構想」を急ピッチで進め、計画を前倒しして実現し、この構想の実現により、生徒1人に1台のパソコンやタブレット端末が導入され、小中学校にWi-Fiが敷設されたことで、子どもたちの学習環境は一変してきています。しかし情報端末の導入と同時に、端末の活用が広まるわけではありません。現在でもインターネットの接続環境の問題や、使用できる授業の制限、端末の家への持ち帰りの禁止など配布端末や学校のインターネット環境を利用した音声教材の使用には課題が多くあります(例:①②⑤)。実際に令和3年度に実施した利用者向けアンケートでは、回答者の約半数が本学の音声教材を選ぶ際の基準のひとつとして「インターネットを使用しなくても音声教材の利用が可能であったため」という項目を選択しています。同時に、自治体によって導入するパソコン等(タブレット端末含む)の基本ソフト(OS)が多様であることも、音声教材の利活用を推進する上で大きな課題となっています。すなわち、専用アプリを介して音声教材を利用する場合には、対応していないOSの端末では提供している教材を提示することができないこともあります。
他方、③④⑥の音声データ形式については,ICレコーダーや音声ペン等で音声を再生する方式で、タブレット型情報端末やノートパソコンに比べると,授業中に利用する上での特殊感は少なく、また、学内の情報セキュリティ上発生する問題を回避することができます。ただし、この方式にも、(a)障害のない児童生徒とは異なるツールであることは否定できない、(b)文字を拡大すれば読むことができるため,文字と音声の両方を呈示してほしいというニーズに対応できない、(c)担当教員が自作する教材や教科書準拠の副教材等を教育現場で即時的に利用できない等の課題が残されています。

これまでの取組と、発達障害等のある児童生徒本人・保護者・担当教員のニーズを考慮に入れると、以下に示す点を満たす方法が求められているということができます。

  • ●音声と文字が同じツール(端末等)で呈示されること
  • ●読み間違いがないことを確認した音声データが再生されること
  • ●文字のフォントや大きさが変更できること
  • ●通常の学級において、障害のない児童生徒も日常的に用いるツールであること
  • ●インターネットに接続しなくても利用可能であること
こうしたニーズに対応しつつ、円滑に音声教材を提供する方法として、愛媛大学においては音声ファイルを中心とした音声教材UNLOCKを作成し提供しています。音声再生の媒体としては、①文房具に近い形状を持ち、既存の紙媒体の教科書と合わせて利用可能な音声ペン(五大エンボディ社音声再生ペン等)、②GIGAスクール構想によって配備されたICT端末も含め、タブレットやPC、スマートフォン、MP3プレーヤー等を想定しています。

3. 本事業の目的

本事業の目的は、以下の3つです。

  • (1)UNLOCKの効率的な製作方法の検証
  • (2)UNLOCKの効率的な提供方法の検証
  • (3)UNLOCKの利用状況と効果の検証

本事業の調査研究にご協力いただく、ご本人および貴校・教育委員会・保護者のみなさまには、アンケート調査への回答や、実際に学校での利用状況の調査(見学など)をお引き受けいただくことになります。

4. 本学が制作・提供の対象とする教科書の種類

愛媛大学が音声教材として製作・提供する教科書の種類については、以下の通りです。

小学校 国語・算数・英語・理科・社会 【実技系教科】
生活科・音楽 保健体育・技術 家庭科等
中学校 国語・数学・英語・理科(全般)・社会
高等学校

国語・数学・英語・理科(全般)・社会

専門科目

学校種は小学校から高等学校まで、教科に関しては、国語や社会に加えて、他の提供機関ではあまり扱われていない数学や理科、そして実技系・専門の科目についても対応しています。
※「地図」の教科書は音声教材の制作ができませんので、ご了承ください。

5. 音声教材の制作

愛媛大学では音声教材の制作に特定非営利活動法人サイエンス・アクセシビリティ・ネットChattyInfty等を使用しています。